民泊の収支シミュレーションは、「営業可能泊数→販売泊数→OTA上の売上→OTA受取金→変動費・固定費→手残り」の順で計算します。売上を高く見積もらないためには、365日営業を前提にせず、平均宿泊日数から清掃回数を出し、保守・標準・上振れの3シナリオを比較することが重要です。制度、自治体条例、OTAの契約条件、物件固有の費用が未確定なら、最終的な採算も確定しません。民泊の収支は「売上」ではなく「手残り」まで計算する民泊の投資判断で見るべき数字は、OTAの画面に表示される売上だけではありません。サービス料などの控除後に受け取る金額から、清掃関連費、消耗品、光熱費、運営費、家賃やローンなどを差し引いた手残りまで計算します。&HOSTの運営・収支設計でも、表面上の売上ではなく、これらの費用を反映した手残りを判断の軸にします。判断の順序は次のとおりです。1. 制度と物件条件から営業可能泊数を置く2. ADRと稼働率から販売泊数・宿泊売上を出す3. OTAの控除条件を反映して受取金を出す4. 平均宿泊日数から予約件数・清掃回数を求める5. 変動費と固定費を控除して手残りを出すADRや稼働率が高くても、清掃回数や固定費が多ければ利益は残りません。反対に、売上が想定より低くても、長期滞在が多く清掃回数を抑えられれば、手残りへの影響が小さくなる場合があります。収支シミュレーションの前に確認する3つの前提入力前に、少なくとも次の3点を確認します。・制度と営業可能日数:住宅宿泊事業法の届出、旅館業法の許可、特区民泊の認定のどれを利用するか。自治体条例による期間制限がないか・物件の運営条件:用途地域、管理規約、消防・建築上の条件、定員、販売できる部屋数を確認できているか・料金と費用の契約条件:利用するOTAの控除条件、清掃委託費、運営代行費、家賃・ローン、保険料などを把握しているかこれらが未確定の段階では、収支表は採算を確定する資料ではなく、条件を比較するための仮試算です。特に営業可能泊数を確認せず、年間の日数を機械的に入力すると、後から売上予測を大きく修正することになりかねません。民泊の売上はADR×販売泊数で計算する基本となる計算式は次のとおりです。・販売泊数=営業可能泊数×稼働率・宿泊売上=ADR×販売泊数ADRは、販売した1泊あたりの平均宿泊単価です。稼働率は、営業可能泊数のうち実際に販売できた泊数の割合として置きます。稼働率の基礎となる考え方は、観光庁の宿泊旅行統計調査報告で示される客室稼働率の定義も参考になります。例えば営業可能泊数を確認しないまま365日で計算すると、実際には営業できない日まで売上に含めるおそれがあります。最初に置くべきなのは稼働率ではなく、その制度・物件で販売可能な泊数です。複数室を販売する場合は、部屋ごとの営業可能泊数を合計するか、部屋タイプ別に計算します。長期契約や月単位の賃貸を組み合わせる場合も、単純な1室1泊モデルとは分けてください。ADR・稼働率・RevPARの違いと使い分け3つの指標は、確認できる内容が異なります。・ADR:販売した1泊あたりの平均宿泊単価・稼働率:営業可能泊数に対する販売泊数の割合・RevPAR:営業可能な1泊あたりの宿泊売上RevPARは「ADR×稼働率」、または「宿泊売上÷営業可能泊数」で整理できます。ADRだけが高い運営と、単価を抑えて稼働率を高めた運営を、同じ営業可能泊数で比較するときに便利です。ただし、RevPARにはOTA手数料、清掃費、運営費、家賃などが含まれません。売上効率を比べる補助指標であり、利益や投資回収を直接示す数字ではない点に注意が必要です。ADRの根拠を作るときは、年間を一つの単価で置かず、曜日や繁忙期などを分けます。具体的な調整方法は民泊の価格設定方法も参考にしてください。売上から手残りまでの計算フロー収支表では、次の項目を別々の行にします。1. 営業可能泊数2. 販売泊数=営業可能泊数×稼働率3. OTA上の宿泊売上=ADR×販売泊数4. OTA受取金=宿泊売上や追加料金-OTAの控除額5. 予約件数=販売泊数÷平均宿泊日数6. 清掃関連費=清掃単価×予約件数7. 手残り=OTA受取金-変動費-固定費ゲストから清掃料金を受け取る場合は収入側に、清掃業者へ支払う金額は費用側に置きます。両者を最初から相殺すると、料金改定や委託単価の変更による影響が見えにくくなります。税金、減価償却、借入金の元本と利息などは、運営上の資金収支と税務上の利益で扱いが異なる場合があります。収支表の目的を決めたうえで、必要に応じて税理士などへ個別に確認してください。OTA売上と受取金を分けて計算するAirbnbなどのOTAでは、ゲストが支払う金額、OTA上の売上、オーナーの受取金が同じとは限りません。Airbnbでは、宿泊料金や追加料金からホストサービス料などを差し引いて受取金が計算されます。仕組みは公式の受取金の計算で確認できます。収支表では、次の欄を分けると確認しやすくなります。・宿泊料金による売上・清掃料金などの追加料金・OTAのサービス料その他の控除・控除後の受取金サービス料率や控除対象は、OTA、ホスト属性、連携システム、地域、契約する料金体系などで変わり得ます。全国共通の固定率を置かず、管理画面や契約条件で確認した数値を入力してください。複数OTAを使う場合は、OTA別に売上と受取金を計算してから合算します。清掃料金の請求額と実際の清掃費は別に管理するゲストへ請求する清掃料金は収入、清掃会社やスタッフへ支払う清掃費は費用です。名称が似ていても、同じ金額になるとは限りません。委託費には、通常清掃に加えて、リネン交換・洗濯、ごみ処理、消耗品補充などが含まれる場合があります。緊急対応、汚損時の追加作業、交通費、繁忙期加算が別料金になる契約もあります。清掃料金を宿泊単価に含めてゲストへ請求しない運用でも、実際の清掃費は残ります。また、ゲストへの請求額が清掃委託費を上回っていても、OTAの控除対象や税の扱いによって受取額が変わる可能性があります。請求額と支払額は相殺せず、別の行で管理します。平均宿泊日数から予約件数と清掃回数を出す予約件数は、説明用の簡易モデルでは次の式で近似できます。予約件数=販売泊数÷平均宿泊日数チェックアウトごとに1回清掃するなら、予約件数がおおむね清掃回数になります。したがって販売泊数が同じでも、平均宿泊日数が短いほど予約件数と清掃回数が増え、手残りが減る可能性があります。&HOSTの現場メモADRと稼働率だけでは売上までは見えても、予約単位で発生する清掃回数は見えません。平均宿泊日数まで入力すると、同じ販売泊数でも清掃費がどの程度変わるかを比較できます。例えば、販売泊数が同じ60泊でも、平均宿泊日数を2泊と仮定すれば予約件数は30件、3泊なら20件です。これは計算方法を示す仮定例であり、特定物件の実績ではありません。実際には、滞在中の清掃、臨時清掃、リネン交換条件、オーナー自身による清掃などを反映して調整します。外注費の確認項目は民泊の清掃費と外注時の確認ポイントも参照してください。変動費と固定費を分けて手残りを計算する収支表では、稼働や予約件数に応じて増減する変動費と、売上がなくても発生する固定費を分けます。変動費として整理しやすい項目・清掃・リネン関連費、消耗品費・稼働に連動する光熱費・売上や予約数に連動する運営代行費固定費として整理しやすい項目・家賃またはローンに関する支出・通信費、システム利用料、保険料・定期的な点検・修繕費、固定額で契約する運営費簡易的な手残りは「OTA受取金-変動費-固定費」で計算します。税金、減価償却、消費税、借入金元本・利息の扱いは、事業形態や計算目的によって異なるため、一律に経費処理せず個別に確認してください。費用を分けておくと、販売泊数が増えた場合に追加で残る金額や、固定費を回収するために必要な売上を確認しやすくなります。自主管理と代行は費用の置き方を揃えて比べる運営代行費だけを追加コストとして見ると、自主管理との比較が偏ります。自主管理でも、予約管理、ゲスト対応、清掃手配、価格調整、トラブル対応などの業務は発生し、一部を外注する場合はその費用もかかります。比較するときは、業務を次の3つに分けます。・自分で担当する業務・個別の事業者へ外注する業務・運営代行へ任せる業務そのうえで、自主管理側には実際の外注費や必要な作業量を、代行側には委託範囲に対応する費用を置きます。どちらか一方だけに費用を加えるのではなく、同じ業務範囲を同じ土俵で比べることが大切です。&HOSTへの収支相談では、物件条件に加えて、自分で持ちたい業務と任せたい業務を分けて共有すると、費目と業務範囲を対応させながら比較しやすくなります。営業可能日数は制度と自治体条例を確認して置く住宅宿泊事業法に基づく届出住宅では、4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間に、人を宿泊させる日数は180日までです。1泊は1日として算定され、自治体条例によって実施期間がさらに制限される場合があります。詳細は民泊制度ポータルサイトのよくあるご質問で確認できます。ただし、旅館業法の許可や特区民泊の認定は別制度です。すべての民泊に住宅宿泊事業法の180日上限が一律に適用されるわけではありません。収支計算を始める前に、次の順で確認します。1. 利用する制度2. 自治体条例による期間・区域の制限3. 用途地域、消防・建築上の条件4. 賃貸借契約や管理規約5. 実際に販売できる曜日・期間制度上の上限と、物件が実際に営業できる泊数は同じとは限りません。旅館業と民泊新法の違いを確認したうえで、所在地を管轄する自治体などへ個別に確認してください。保守・標準・上振れの3シナリオで比較する単一のADRと稼働率だけで判断せず、保守・標準・上振れの3列を作ります。営業可能泊数、ADR、稼働率、平均宿泊日数に加え、OTAの控除条件、清掃単価、その他の変動費、固定費を確認し、変動が見込まれる項目はシナリオごとに変更します。以下は計算手順を示すためだけの仮定例です。特定地域・物件の市場実績、将来予測、収益保証ではありません。OTA控除率なども説明用の仮定であり、実際の契約条件へ置き換える必要があります。営業可能泊数・保守:100泊・標準:120泊・上振れ:150泊ADR・保守:12,000円・標準:15,000円・上振れ:18,000円稼働率・保守:40%・標準:60%・上振れ:80%販売泊数・保守:40泊・標準:72泊・上振れ:120泊宿泊売上・保守:480,000円・標準:1,080,000円・上振れ:2,160,000円平均宿泊日数・保守:2泊・標準:3泊・上振れ:4泊予約・清掃回数・保守:20回・標準:24回・上振れ:30回OTA控除率(仮定)・保守:15%・標準:15%・上振れ:15%OTA受取金・保守:408,000円・標準:918,000円・上振れ:1,836,000円清掃単価(仮定)・保守:5,000円・標準:5,000円・上振れ:5,000円清掃費・保守:100,000円・標準:120,000円・上振れ:150,000円その他変動費・保守:40,000円・標準:72,000円・上振れ:120,000円固定費・保守:400,000円・標準:400,000円・上振れ:400,000円簡易手残り・保守:-132,000円・標準:326,000円・上振れ:1,166,000円この例では、清掃料金などの追加収入、税金、減価償却、借入金の詳細、臨時修繕費を含めていません。重要なのは上振れ時の利益ではなく、保守シナリオで赤字になったときに固定費を負担できるか、どの前提が崩れると採算が変わるかを確認することです。自分の物件条件で、3シナリオの手残りを試算したい方へ。民泊収支で売上を高く見積もらないチェックリスト最後に、入力値と計算結果を項目別に確認します。営業条件・営業可能泊数を365日で機械的に置いていないか・制度、自治体条例、用途地域、管理規約を確認したか売上とOTA受取金・ADRに曜日・季節・繁閑差を反映したか・稼働率を単一の強気な予測だけで置いていないか・OTA上の売上と控除後の受取金を分けたか・OTAの料率や控除対象を実際の契約条件で確認したか費用と手残り・平均宿泊日数から予約件数と清掃回数を出したか・ゲストへの清掃料金と実際の清掃費を分けたか・消耗品、光熱費、通信費、保険、修繕費を含めたか・家賃・ローンなど、売上がなくても発生する支出を含めたかシナリオの妥当性・保守・標準・上振れの3シナリオを比較したか・数値例や競合データを、そのまま対象物件の実績として使っていないか収支シミュレーションは、強い売上予測を作るためではなく、前提が外れた場合の損失と許容範囲を確認するためのものです。対象物件の所在地、制度、契約、運営方法が決まった段階で、すべての入力値を更新してください。よくある質問民泊の売上はADRと稼働率だけで計算できますか?基本売上はADR×営業可能泊数×稼働率で計算できます。ただし採算判断には、OTA控除、平均宿泊日数に応じた清掃回数、変動費、固定費まで反映する必要があります。RevPARが高ければ利益も高いですか?必ずしも高くありません。RevPARは営業可能な1泊あたりの宿泊売上を示す指標で、OTA手数料、清掃費、家賃などは含みません。利益比較には手残りを使います。住宅宿泊事業法の民泊は年間180日営業できますか?180日は届出住宅における制度上の上限です。自治体条例や物件条件によって実際に営業できる日数が少なくなる場合があるため、所在地ごとの確認が必要です。旅館業法や特区民泊は別制度です。平均宿泊日数はなぜ収支に必要ですか?販売泊数を平均宿泊日数で割ると、予約件数と清掃回数の目安を出せるためです。同じ販売泊数でも、短期滞在が多いほど清掃費が増える可能性があります。シミュレーションの数値例をそのまま使えますか?使えません。記事内の数値は計算方法を示す仮定です。対象物件の制度、地域、ADR、OTA契約、清掃費、固定費などへ置き換えて再計算してください。